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浦和地方裁判所 昭和47年(ワ)452号 判決 1974年5月17日

原告

高水武平

被告

プリマーベ株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自原告に対し、金一三六、五二八円及びこれに対する昭和四六年四月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自原告に対し、金六、一〇六、八七六円およびこれに対する昭和四六年四月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和四六年四月二九日午前五時ころ、東京都西多摩郡殿ケ谷九九三番地先路上において、被告佐藤正司(以下被告佐藤という。)の運転する大型貨物自動車(以下被告車という。)と原告運転の軽自動車(以下原告車という。)とが衝突した。

2  責任原因

(一) 松月堂パン株式会社(以下訴外会社という。)は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していた者である。よつて本件事故に基づく原告の後記人的損害につき自賠法三条により賠償責任がある。

(二) 訴外会社は、被告佐藤の使用者であり、本件事故は、同被告が訴外会社の業務の執行として被告車を運転中、前方不注視、制限速度超過、道路右側通行等の過失に基づき発生させたものである。よつて、訴外会社は、本件事故に基づく原告の後記物損につき民法七一五条一項により賠償責任がある。

(三) 被告佐藤は、前記(二)記載の過失があつたから、本件事故に基づく原告の後記損害につき民法七〇九条により賠償責任がある。

(四) 被告プリマーベ株式会社(以下被告会社という。)は、本件事故後訴外会社を吸収合併したうえ商号を変更したものである。

3  損害

原告は、本件事故により右側頭骨々折、脳挫傷、右顔面挫創等の傷害を受け、この治療のため事故の日より三八日間入院し、退院後五八日間通院したが、手、足、目等に頑固な神経症状、外形の破損等の後遺症を残し、これは自賠法施行令別表後遺障害等級表第一三級に該当する。また、原告は、本件事故により、原告車及びこれに積載してあつた商品を破損され、更に、事故現場付近の小峰七蔵方塀を損壊し、その補修代金を支払つた。

これらによる原告の被つた損害の額は次のとおりである。

(一) 治療費 金四六七、一二〇円

(イ) 入院治療費 金三三九、四八〇円

(ロ) 通院治療費 金一二七、六四〇円

(二) 休業補償費 金一、七六〇、〇〇〇円

原告は、本件事故当時肩書住所で牛乳販売業を経営し平均事業所得二二〇、〇〇〇円の月収を得ていたところ前記受傷のため本件事故時から職場復帰まで二四七日間(約八箇月間)この仕事に従事することができず、その間の得べかりし収入金一、七六〇、〇〇〇円を失つた。

220,000円×8箇月=1,760,000円

仮りに右の主張が認められないとしても

(三) 事業経費増による損害 金一、七〇一、八〇五円

原告は、昭和四六年四月二九日から休業中、新たに妻を牛乳販売業に従事させたうえ、アルバイト五人を臨時に雇い、更に職場復帰後も身体が思うにまかせないので同四七年六月三〇日まで妻を引き続き従事させ、アルバイト一人を継続して雇つた。妻の稼働分を月額四〇、〇〇〇円と評価できるから、右事情に基づく事業出費は、妻に対して金五六〇、〇〇〇円を、アルバイトに対し一、一四二、八〇五円を支出したことになり総計金一、七〇一、八〇五円の損害を被つたことになる。よつて、(二)の損害が認められないとすれば、(三)の損害を請求する。

(四) 後遺症による逸失利益 金三、三四一、一一〇円

原告の前記後遺症による稼働能力喪失率は九パーセントであるところ、原告は、本件事故当時満四二歳であつたから、今後の就労可能年数は二一年を相当とし、ホフマン式計算法により原告の逸失利益を算出すると三、三四一、一一〇円となる。

220,000円×12月×0.09×14,104=334,110円

(五) 慰謝料 金四八二、〇〇〇円

原告は、本件事故によつて入通院を余儀なくされ、かつ、前記後遺症を残しており、これを慰謝すべき額は入院一日につき四、〇〇〇円、通院一日につき一、五〇〇円、後遺症につき二五〇、〇〇〇円、以上合計四八二、〇〇〇円を相当とする。

(六) 原告車破損による損害 金三五七、九五〇円

原告は、本件事故によつて、昭和四五年六月中新車として購入したその所有の原告車を大破され修理不能の状態となり、金三五七、九五〇円の損害を被つた。

(七) 商品破損による損害 金一七、一一六円

原告は、本件事故により原告車に積載してあつた牛乳商品が破損して金一七、一一六円相当の損害を被つた。

(八) 弁償金 金二一、〇六〇円

原告は、本件事故により事故現場付近の小峰七蔵方塀を破損し、その補修工事代金二一、〇六〇円を同人に支払い、同額の損害を被つた。

(九) 損害の填補 金三三九、四八〇円

原告は、本件事故による入院治療費の填補として自賠責保険金三三九、四八〇円を受領した。

4  結論

よつて、原告は、被告らに対し、各自以上損害金合計額から前記一部弁済額を控除した金六、一〇六、八七六円とこれに対する不法行為発生の日である昭和四六年四月二九日から完済まで民法所法定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2(一)のうち、本件事故当時訴外会社が被告車を所有していたこと、同(二)のうち訴外会社が被告佐藤の使用者で、本件事故は同被告が訴外会社の業務の執行として被告車を運転中に発生したものであること、制限速度超過の事実及び同(四)の事実は認めるが、同(二)、(三)の被告佐藤に過失があつたことは否認する。(本件事故の態様は、被告らの抗弁1に主張するとおりである。)

3  請求原因3のうち本件事故により原告が負傷し、入院したこと及び原告の年令は認めるが、傷害の部位入院日数、同(六)ないし(八)の事実については不知、その余は全て争う。

三  抗弁

1  自賠法三条但書による免責

(一) 本件事故は、原告の一方的過失に基づき発生したものである。即ち、原告は本件事故当時、原告車を運転し、東南方村山町方面から西北方青梅市方面に通ずる道路(以下甲道路という。)と交差する南西方横田基地方面から東北方に通ずる幅員三・一メートルの道路(以下乙道路という。)を横田基地方面から進行し、同交差点を村山町方面に向かい右折しようとしたものであるが、同交差点は、交通整理が行なわれていないうえ、左右の見通しが困難な状況にあつたから、同交差点に進入するに当つては、まず一時停止し、右方道路の安全を確認し、乙道路よりも明らかに幅員が広い甲道路を進行中の被告車の進行を妨げてはならない注意義務(道路交通法三六条二項)及び同交差点内において右折するに当つては徐行しなければならない注意義務(同条三項)を負つていたにもかかわらず、右各注意義務に違反し、右方道路の安全を確めることなく漫然同交差点に進入し、急加速のうえ右折にかかつたため、折柄甲道路を村山町方面より青梅市方面に向け進行していた被告佐藤運転の被告車に衝突するに至つたものである。

しかして、他方被告佐藤は、前記のように、甲道路を青梅市方面へ向け進行中、乙道路を横田基地方面から右交差点に最徐行して進入してきた原告車を約一四・四メートル手前の地点に認めたが、前記のような道路状況であつたことから、原告車が甲道路に前部を出した状態で左右の安全を確認すべく一時停止し、被告車をやり過ごしてくれるものと判断し、そのまま直進しようとしたところ、同被告の予期に反した原告の前記運転に危険を感じ、急制動のうえ右にハンドルをきつたが及ばなかつたものである。

(二) 被告車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。

2  過失相殺

仮りに右の主張が認められないとしても、本件事故は、前記のとおり、原告にも重大な過失があつたものというべく、損害額の算定にあたつてはこれを斟酌すべきである。

3  弁済 金四三九、一九〇円

被告会社は、原告に対し左のとおり支払いずみである。

(一) 入院治療費 金三四八、七八〇円

(二) 通院治療費 金五〇、〇〇〇円

(三) 付添料 金三〇、四一〇円

4  相殺

(一) 被告会社は、前記のとおり、原告の過失に基づき発生した本件事故により、その所有の被告車を破損され、金一七七、四九〇円相当の損害を被つた。

(二) 従つて仮に、被告会社に賠償責任が認められるとすれば、被告会社は、右(一)の債権をもつて原告の本訴債権とその対当額において相殺する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)のうち、乙道路の幅員が三・一メートルであること、本件交差点が交通整理の行なわれていないこと、被告佐藤が事故直前被告車を運転し、甲道路を村山町方面から青梅市方面に向い進行中であつた事実は認め、その余は否認する。同(二)の事実は不知、抗弁1、2、4(一)の原告に過失があつたことは否認する。

2  抗弁3の事実のうち(二)、(三)は認めるが、同(一)は三三九、四八〇円の限度で認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  事故の態様

〔証拠略〕を総合すると次の事実が認められる。

本件事故現場は、いずれも舗装されて平担な、南西方横田基地方面から東北方に通ずる乙道路(幅員三・一メートル=右幅員については当事者間に争いがない。)と交差する東南方村山町方面から西北方青梅市方面に通ずる甲道路(幅員五・六メートル)上で、そのセンター、ライン東寄りの、右交差点から村山町方面にやや隔つた地点である。同交差点の南西角には高さ約二メートルの生垣が設けられ、約三、四メートルの高さの植木が植えてあるため村山町方面と横田基地方面から交差点に進入する車両は、双互の見とおしが極めて悪く、(なお、同交差点より村山町方面約五〇ないし一〇〇メートル先は甲道路の幅が広くなつており、乙道路を横田基地方面より進入する車両の見とおしを更に悪くしている。)このため同交差点の東北角にはカーブミラーが設置されている。なお、本件事故当時甲道路の速度制限は四〇キロメートルであり、右交差点は、交通整理が行なわれていず(この点は当事者間に争いがない。)早朝でもあつて交通は閑散であつたし、また相当大量の降雨中であつた。

1  被告佐藤は、被告車を運転して甲道路を村山町方面から青梅市方面に向け進行し(この点については当事者間に争いがない。)、時速約五〇ないし六〇キロメートルの速度で本件交差点に差しかかつた際、乙道路を横田基地方面から同交差点に徐行しながら進入してきた原告車を約一四・四メートル手前で認めたが、被告車が乙道路より幅員の広い甲道路を進行中であつたことから、原告車が同交差点直前で一時停止し、被告車に進路を譲つてくれるものと軽信して徐行することもなく前記速度で同交差点を通過しようとしたところ、原告車が同交差点に進入し、右折し始めたのを約五・二メートル手前に到つて認め急制動をかけるとともにハンドルを右にきつたが及ばず、前記場所で被告車前部を原告車右側中央部に衝突させた。

2  他方原告は、原告車を運転して乙道路を横田基地方面から本件交差点に到り、進入直前一旦停車したが折からの豪雨で前記カーブミラーが曇つて見えないのに、甲道路の右方の安全を確認しないで時速約一〇キロメートルの速度で本件交差点に進入し、村山町方面に右折しようとしたため、被告車の接近に気付いたときには既に衝突回避の時間的余裕がなく、原告車がやや右折の態勢になつた状態で前記のとおり被告車に衝突され、原告車は衝突後右に半回転して交差点東北方角付近の小峰七蔵方ブロツク塀に突きあたり停止した。

原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に比べて信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  責任原因

1  原告および被告佐藤の過失の有無ならびにその割合

以上認定の事実によれば、甲道路は、最高速度を四〇キロメートルに制限されているのにかかわらず、被告佐藤は、右制限速度を超える時速約五〇ないし六〇キロメートルの速度(同被告が制限速度を超過運転していたことは、被告らの認めるところである。)を継続して同交差点に進入しようとしたものであり、かつ、事故当時は、折からの豪雨のため、視界は極めて不良であつたから、前方を特に注視すべき義務があつたのにこれを怠つたものであつて、前方不注視、制限速度違反の過失を免かれない。

他方、前記説示のような道路状況、特に、乙道路を横田基地方面より甲道路に進入するには、右方の見とおしが不可能で、かつ、当時豪雨中で視界が極端に悪化していたのであるからこのような場合原告は、右方道路の安全確認を十分にすべきであり、また、甲道路は、その幅員において、乙道路より明らかに広いものと認められるところ、原告車がそのまま交差点に進入すれば、被告車の進行を妨害することが明らかであるから、原告車としては一時停車の措置を継続して被告車の進行を妨げないようにすべき注意義務があるのにかかわらず、原告は、右注意義務に違反し、甲道路右方の安全確認を怠り、漫然甲道路に進入し、被告車の進行を妨害した過失がある。そして以上の各過失が本件事故の原因をなしていることは前記認定の事実に照らし明白であるところ、その過失の割合は原告が七割、被告佐藤が三割と認めるのが相当である。

2  自動車運行供用者責任

訴外会社が本件事故当時被告車を所有していたことは当事者間に争いないから、訴外会社は、運行供用者として自賠法三条により本件事故に基づく原告の被つた後記認定の人的損害を賠償する責任があつたところ、被告会社が本件事故後、訴外会社を吸収合併したことについては当事者間に争いがないから、被告会社は、右賠償責任を承継したものといわねばならない。

3  使用者責任

訴外会社が事故当時被告佐藤の使用者で、本件事故は、同被告が訴外会社の業務の執行として被告車を運転中に発生させたものであることは当事者間に争いがないところ、被告佐藤には前記過失があるから、訴外会社は、本件事故に基づく原告の後記物的損害についても民法七一五条一項によりこれを賠償する責任があつた。従つて、被告会社は、前同様の理由により右責任を承継したことは明らかである。

4  被告佐藤は、前記過失により本件事故を発生せしめたものであるから直接の行為者として民法七〇九条により本件事故に基づく原告の被つた後記認定の人損、物損を賠償すべき責任がある。

四  損害

1  受傷による損害

〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故により右側頭骨々折、脳挫傷、右顔面挫創の傷害を受け、事故発生の日である昭和四六年四月二九日から同年六月五日まで東京都福生市の医療法人社団大聖病院に入院し、その後、昭和四七年四月三〇日までの間に実日数五四日にわたり同病院に通院して治療をうけたが、当裁判所の鑑定嘱託に基づく検査時(昭和四八年九月一四日)において、なお自覚症状として頭痛、易疲労感等頭部外傷後遺症が残存し、自賠法施行令別表後遺障害等級表第一四級に該当するが、脳波検査上の異常や脳神経脱落症状はないことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そして原告の右受傷に基づく損害は、次のとおりである。

(一)  治療費 金一四〇、一三六円

〔証拠略〕によると、原告は、治療費四六七、一二〇円を支払つたことが認められるところ、原告の前記過失割合を考慮すると一四〇、一三六円となり、原告は、同額の損害を被つたこととなる。

(二)  休業損害 金二九五、〇八四円

〔証拠略〕によれば、原告は、事故当時肩書住所で、「瑞穂」と称する店名で牛乳販売店を営み、常時数名のアルバイトを使用し、三台の軽自動車をその営業の用に供し、自らも仕入、戸配(顧客の各家に配達すること。)、計理などの業務に従事していたところ、本件事故により、前記入院中は勿論、原告が自認しているように、職場に復帰することのできた遅くとも昭和四七年一月一日までは充分に稼働できなかつたことが認められる。しかしながら、右職場復帰に至るまでの期間中であつても、前記認定の症状の程度に照らし職業の特質を考慮してもその全期間に亘つて稼働能力を全面的に失なつたものとは到底認め難く、退院後三箇月間は全部の、その後の四箇月間は八〇パーセントの稼働能力を失なつたものと解するのを相当とし、原告の休業による損害は右の限度において本件事故と相当因果関係を肯認しうるものと考える。

また、その後も前記認定の後遺症による稼働能力を一部失つたことが首肯しられえ、右後遺症の程度、原告の職業の特殊性を考慮し、更に前記鑑定および原告本人尋問の各結果を総合して判断すると、右期間経過後(昭和四七年一月一日以降)においてもなお五パーセントの稼働能力を失い、経験則上この状態が二年間継続したものと認めるのが相当である。

なお、原告は、その純益平均月収を二二〇、〇〇〇円と主張するが、的確な根拠および資料を欠き全面的に信用することはできないが、〔証拠略〕を総合すれば、原告の事故直前たる昭和四六年一月分より同年四月分までの営業による月平均の粗利益は三九〇、三二五円となるところ、人件費、運搬車用、ガソリン代、同じく右車両整備費、電気、ガス、水道、電話等の各料金などの事業経費月額は右粗利益の四割を下らないものと認めることができ、従つて結局前記期間における右営業上の純収益平均月額は計数上二三四、一九五円となる。

しかして、個人企業主が身体を傷害された場合の逸失利益の算定は、原則として企業収益中に占めていた企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算出すべきところ、本件においては原告の企業収益中に占めている原告の個人的寄与に基づく収益の割合は五〇パーセントを超えることはないと認められ、原告の平均月収は一一七、〇九七円となり、右認定を左右するに足りる証拠はない。右のように解するのを正当とする以上、原告の予備的主張は、理由がないのみならず、そうでなくとも右主張を認めるに足りる的確な証拠もない。

以上の説示に基づき、原告の逸失利益を計算すると次のとおりである。

117,097円×4箇月(46.4.29~46.8.31)=468,388円・・・・・(1)

117,097円×0.8×4箇月(46.9.1~46.12.31)=374,710円・・・・・(2)

117,097円×0.05×24箇月(47.1.1~48.12.31)=140,516円・・・・・(3)

(1)+(2)+(3)=983,614円

従つて原告の逸失利益は、九八三、六一四円となるところ、前記過失を斟酌すると、二九五、〇八四円となる。

(三)  慰謝料 金二〇〇、〇〇〇円

前記認定の傷害及び後遺症の程度その他本件に現われた諸般の事情を考慮し、他方原告の過失を考えると、本件慰謝料は、二〇〇、〇〇〇円が相当である。

2  物損

(一)  原告車破損による損害金四八、四二三円

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故によりその所有する軽自動車を大破され修理不能の状態となり、本件事故当日より約一〇箇月前の昭和四五年六月下旬に新車として金三一三、〇〇〇円で購入したものを廃車にせざるを得なかつたことが認められる。しかして、右原告車の本件事故直前の時価はいわゆる定率法によれば、その償却率は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」により、〇・五六二と定められているからこれにより計算すると

原告車の時価=313,000円-(313,000円×0.562×10/12)≒166,412円

となるが、これよりスクラツプ代金五、〇〇〇円相当を控除すると一六一、四一二円となり、原告には前記過失があるからこれを考慮すると四八、四二三円となり、原告は右額相当の損害を被つたこととなる。

(二)  弁償金 金六、三一八円

〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故によつて本件交差点付近の小峰七蔵方ブロツク塀を破損し、その補修工事代金二一、〇六〇円を同人に支払つたことが認められるところ、原告の前記過失を斟酌すると六、三一八円となり、同額の損害を被つたこととなる。

(三)  なお原告は、本件事故により原告車に積載してあつた牛乳商品が破損し、一七、一一六円相当の損害を被つた旨主張するが、全証拠によるも破損商品名、数量、価額等の事実を認めることができない。

3  以上のとおり、原告の本件事故により被つた全損害額は、1の(一)ないし(三)、2の(一)、(二)の合計額六八九、九六一円である。

五  被告の抗弁について

1  自賠法三条但書による免責について

被告会社の右抗弁は被告佐藤にも過失のあつたことは前認定のとおりであるから、その他の点について判断するまでもなく失当である。

2  一部弁済及び相殺について

(一)  原告は、本件受傷に基づく弁済として、訴外会社から金八〇、四一〇円を受領したことは〔証拠略〕によると、訴外会社が大聖病院へ原告の入院治療費として三四八、七八〇円を支払つたことが認められる(以上合計額四二九、一九〇円)。

(二)  〔証拠略〕によると、本件事故により当時訴外会社所有の被告車が破損し、その修理費として一七七、四九〇円を支出したことが認められるところ、前認定の被告佐藤の過失割合を斟酌すると、原告の前認定の債権と相殺に供せられるべき被告会社の債権額は一二四、二四三円となる。

(三)  よつて、原告の前記全損害額より右(一)の弁済金額を差引き、更に(二)の被告会社の被つた被告車の損害額を対当額において相殺すると、一三六、五二八円となる。

六  以上の次第であるから、原告が被告らに対し本件事故による損害賠償を求める本訴請求は、各自被告らに対し金一三六、五二八円及びこれに対する不法行為発生の日である昭和四六年四月二九日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用しよつて主文のとおり判決する。

(裁判官 須賀健次郎)

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